ナイトオブゼロの日記 第6話


「これは・・・」

映し出されたのは、謁見の間で行われた演説だった。これもまた、とても有名なもので、今更これが何だと誰もが思った。

「実際に私たちが目にした放送はこれですが、私は、この放送のマスターテープを入手いたしました」
「マスターテープを?」

ざわざわ、と、期待と不安が入り混じったざわめきのなか、ミレイは手をあげた。

「今皆さんが目にしている映像は、皇帝の手で編集されています」

皆の意識が、モニターに移る。
音声なしで流れる映像には、まさに悪の帝王と言う言葉がふさわしい笑みを浮かべたルルーシュの姿が映し出されている。久しぶりに見る映像に、美人はどんな顔をしても様になるのだと、改めて気づかされる。
大きな声では言えないが、悪逆皇帝であるルルーシュのファンは多い。
政策面ではなく、見た目を好むファンだ。
だから、もし彼が賢帝だったら、こんな皇帝だったならというifの物語が、一部のファンの間で描かれ、結構な人気を博していることは有名だった。

「皇帝の手で編集が?」
「はい、そしてこのマスターテープは、ナイトオブゼロの部屋から見つかったものです」

またナイトオブゼロかと、皆が思った。
ナイトオブゼロ、何でも持ってるな。
物が捨てられないタイプなのだろうか。
裏切りの騎士、ブリタニアの白き死神、悪逆皇帝の騎士。
様々な呼び方がされる悪の騎士のイメージが、少し壊れた気がした。

「では、ご覧ください」

ミレイの指示で、画面が切り替わる。
映像は、放送されたものよりも周りが広く映っていた。
放送時はバストアップの映像だったが、撮影時には全身が入っていたのだ。
元々は全身が入る予定だったのだろう。
だが、ここでイレギュラーが起きた。

『おい、ルルーシュ。まだ終わらないのか』

撮影中に乱入者がやってきたのだ。

***

「まあ、スザクさんは何でも大切に取っておかれるんですね」

キラキラと嬉しそうな笑みを浮かべながら、ナナリーはゼロに向かって言った。
まるでスザクに話しかけているような態度に、冷や汗しか流れない。
たしかに、あのマスターテープは持っていた。
処分するというルルーシュから預かり、押し入れに入れていたが、ダモクレス戦後、少しでも知識を詰め込めとルルーシュの大量の宿題を出され、必死になってそれらをこなしていて、持っていた事さえ忘れていた。
あそこにはかなり拙い物があったはずだ。
そのすべてを彼女は持っているんだろうか。
あれらの物が何を意味しているか、彼女は調べたのだろうか。
ああ、過去の自分は何をしていたんだと、今あの頃に戻れたなら一発殴ってくるのにと思いながら、痛む胃を抑えた。

***

「おまえ・・・今撮影中だと解らないのか」

平然と歩み寄って来たC.C.にルルーシュはこめかみを押さえた。

「知っているが、もう昼過ぎだぞ」

カメラを見ても、C.C.は動じない。

「知っているなら来るな!」
「いいじゃないか。どうせ要らない所は編集で消すんだろう?それより」
「昼は過ぎたな。それで?」
「昼食はまだか」

当たり前のように言われた言葉に、ルルーシュはうめいた。

「そんな事のために来たのか?料理人に作らせればいいだろう」
「ブリタニア料理は胃にもたれる」
「毎食ピザを食べてるやつが、胃もたれを気にするとはな」
「ピザは別腹だ」
「デザート扱いか」
「昼食はピザでもいいぞ」
「何故俺に言う。だから料理人にいえ」
「あいつらの味付けは好みじゃない。さっさと作れ」

飽きたんだよ、宮廷料理に。

「俺に作らせる気か!?デリバリーを頼めばいいだろう!」
「ピ○ハットを呼んでいいのか?この前呼んだら怒っただろう、お前」

毎日呼びたいのを我慢しているんだぞ?

「外に行けばいいだろう」

ここには呼ぶな!

「めんどくさい。やはりお前が作れ」
「C.C.!」
「そろそろジェレミアが戻る時間だし、枢木は籠ってお勉強中だろう?きっと腹をすかせているぞ?だからお前が用意しろ」
「・・・っ、解った。これが終わるまで待て」

諦めたように、ルルーシュは言った。
ここで言い合いする時間を考えれば、さっさと終わらせて食事を用意するほうが懸命だと考えたのだ。なにより、自分も宮廷料理に飽き飽きしており、あっさりした食事をしたかったところだ。

「30分で終わらせて、30分で作れ。それが限界だ」

悪逆皇帝相手に、C.C.は偉そうに言った。

***

「これ、は・・・!?」

悪逆皇帝に命令!?しかも昼を作れと!?
たった今耳にした内容が信じられず、報道のプロらしからぬ動揺を顔に乗せ、大先輩にあたるニュースキャスターは絶句していた。
それはそうだろう。
あらゆる悪行を好み、世界を大混乱に落としたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、1人の女性に散々文句を言われ、尚且つ料理を用意しろと、言われているのだ。
言うのではなく、命令するのではなく、言われ、命令されているのだ。
この女性に頭が上がらない、というわけではなさそうだが、最終的には彼女の願いを聞いてしまっている。
誰の意見も聞き入れない稀代の暴君と言われている、あの悪逆皇帝がだ。
C.C.が急げと急かすので、悪逆皇帝は「なら黙れ、すぐに終わる」と言った。そこから先は聞き慣れた、まさに暴君と呼ぶべき内容の演説だった。ただ、カットされた画面部分には、早くしろと言いたげなC.C.が映っていた。彼女の存在を画面から違和感なく消すために、バストアップの演説画面になったことは明白だった。

「彼は料理が得意でしたから、彼女の気持ちはわかります」

私もその場にいたら、ルルーシュに手伝わせていたわねと、ミレイは笑顔で言った。
いや、皆が驚いているのはそういうことじゃない!と思ったのは一瞬で、彼女の発言に再び驚きに声を上げた。

「料理が得意というのは、間違いのない情報ですか?」

悪逆皇帝が、料理。

「はい、私もよく手伝わせていましたから、間違いありません」

にっこり笑顔で、ミレイは言い切った。

「手伝わ・・・悪逆皇帝の話ですが」
「ええ、そうですね。悪逆皇帝なんてなる前の、ルルーシュ・ランペルージの頃の話です。たった数ヶ月で腕が落ちることはありませんから、間違いなく美味しい料理、作ってたと思いますよ?」

さも当たり前のように、ミレイは言った。
絶句するキャスターと、周りの空気に気づいたミレイが首を傾げた。

「ルルーシュ皇帝が学生時代、私の後輩で、私が生徒会長、彼が副会長だったんですが、その情報、知りませんでした?」

アッシュフォード学園。
ミレイ・アッシュフォード。
そういえば、一時彼女が悪逆皇帝の関係者だという噂は流れていたが、まさか、上に立つ側の人間だったとは。いや、その情報も耳にしていた可能性はある。だが、あの悪逆皇帝相手に命令できる人間など現実的に考えれば存在しないと思い込んでいた。

「ルルちゃんは、どんな無理を言っても、文句を言いながらもちゃんとやってくれるから、生徒会の仕事はホント楽でしたよ」
「ルルちゃん!?そんな呼び方をしたら」
「最初は嫌がられましたけど、普通に呼んでました。もう亡くなりましたが、彼のことをルルと呼んでいた女子生徒もいました。彼、仕事は出来るし人望も厚くて、人気者で、だからよく彼を使って遊んだものです」

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